第1章 記憶の固執

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メジャーデビューに漕ぎつけるのは十分に大変なことだが、 この先バンドが生き残っていくことはもっと大変なことだ。 30代で失敗した後の、キャリアを考えると、 啓介はバンドを早めに辞めて良かったと、心の底から思っていた。 「明日の夜、祝賀会があるみたいでさ。顔くらい出そうかなって」 「うん。行っておいでよ」 「ありがとう」 「啓介は、自分も続けていたらって、思わないの?」 「まさか。辞めて正解だったよ」 啓介は良美のお腹に手を当て、両親のことを思い返していた。 音楽にのめり込み大学を3回も留年した自分。 そんなバカ息子のために、大学卒業という選択肢を最後まで残そうと、 貧乏に苦しみながら、学費を払い続けてくれた両親。 音楽に対する熱も冷め、真っ当な道に戻った時、 どれほど親に感謝したことか。 そんな自分も、もう少しで親になるのだ。 「親父とお袋の墓参りにでも行って来ようかな」 「どうしたの? 突然」 「迷惑ばかりかけたと思ってさ。子供ができたことも、報告してなかったから」 「私も行こうかな」 「いいよ。お腹も大変だし、俺一人で行ってくるから」
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