1人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
声の主は桃井幸。
様々な物事に詳しい、同級生の中でも蠱惑的な女生徒だ。
「ロリコンだとは存じ上げておりましたが、このような時まで、ご自分の欲望に素直でいらっしゃるとは」
仕方ない人ですねぇ、と首を振る桃井。
否定しようにも、事実だから言い訳できない。
その証拠に、桃井は上級生からも羨まれるスタイルを持っている彼女に、俺は劣情を抱いたことはない。
そんな時。
ふわっと、空気が動いた。
「ほえ?」
力無い声をあげた鈴のルビーの瞳が開く。
服を着崩したまま、上半身を起こすものの、意識がはっきりしないらしい。
しきりに目をパチパチさせる様は幼子のようで、とても愛らしい。
「おはよう。いきなりで悪いけど、これが何か分かる?」
ずっと少女の目の前に用意されていた、満遍なく白いクリームが塗られた洋菓子を示す。
「けーき?」
「少し違うわねぇ。これは確かにケーキだけど、ちょっと特別なのよ?」
「?」
困惑する少女。
つまり、と指を1本立てつつ、視線で合図を送ってきた桃井に小さく頷き、
「「操ちゃん、誕生日おめでとう!」」
ぴったり声を揃えての祝福に、少女は瞳を大きく見開いた。
その驚きは、俺達が名前を呼び間違えたからじゃない。
見た目は鈴のまま。
けれど、身体を動かす意識は別人と入れ替わっている。
幼女の幽霊、月城操ちゃんと。
どうして、平凡な俺がそんな不思議な体験をしているのか。
きっかけは、一週間前のことだった。
最初のコメントを投稿しよう!