第1章

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それどころか影が無かった。 日陰にいたり、空が曇っていたりする訳じゃない。 なのに、影がないのは幼女が幽霊である証。 誰も何もしなくても当たり前である。 (見えている俺を含めてな) そもそも、無償で人助けする奴なんていない。 そんなのは時間の浪費だ。 感謝の言葉を返されて、そこで終わり。関係の発展なんてない。 幽霊相手ならなおさら。 下手すりゃ呪われる。 (故に俺はこのまま立ち去る) 「ちょっと待ちなさい! そこの陰険男子!」 は? 一瞬、幼女が怒鳴ったのかと思った。 だが違う。 他の通行人も何事かと戸惑っている。 俺は声がした方に振り向き、 「・・・・・・」 呼吸が止まった。 時間すら止まったと錯覚する程、俺は声の主に心を奪われた。 可愛かった。 非常に。猛烈に。 どこか小動物っぽい雰囲気の女の子。 もし、彼女との間に距離がなければ、間違いなく抱き締めていた。 気品を感じる長い夜色の髪に触れ、 美少女特有の甘い香りを胸一杯に堪能し、 小さな造形美溢れる顔に頬擦りをして、 (ああ、妄想が止まらない!) 鼻血を出していない自信がない。 それほど、この出会いに歓喜し、興奮していた。 本当にもう 「何て可愛らしい小学せ」 「私は中学生です!」 感極まった叫びを遮るように投げられた鞄は、俺の顔面にクリーンヒット。 俺は鼻血を噴いて地面に沈んだ。 これが、俺と烏羽鈴の出逢いだった。
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