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「名前を書いていないから断定はできないけれど、有紗っていつも問題で悩む時、プリントの端にくるくると落書きをするでしょう? それが書いてあるし、これってさぁ」
「あ、これ……。私のだ。どうして古里くんの机に?」
どうしてだと? そんなこと思っていないのに? 今頭の中を占めている考えは「古里くんが取ったんだろう」ってそれだけだろう? 何かの間違いで彼の手元に行ってしまうだなんてことを考えてもいないくせに。
彼女が俺に好意を持っていて、だからこそ和があんな態度を取っているにも関わらず俺に構ってもらえているのが許せないとそう思っていることは知っているんだ。これは憶測ではなくて、話しているのを偶然聞いた。だからプリントを和の机に置いたんじゃあないか。これが彼女のでなければ大した意味は持たない。きっと悪いように話を作って広めてくれるだろうと、彼女のそういうところには期待をしているし俺も好感を持っている。
「古里くんが取ったんじゃあない? 有紗が問題解いてるの見て楽しようって」
「……そうなのかな、」
「見ていないのに決めつけるのは良くないよ……。それとごめん、もしかしたら和のだと思ってさっき置いたプリントが君のだったかもしれない」
「早坂くんは優しいんだね。古里くんみたいな子の味方もしてあげるんだもの」
味方も何も、本当に俺が置いたんだよと、笑いそうになるのを堪え、「和は今席を外しているし、取ったところは誰も見ていないのだから」と、肩を叩き落ち着かせた時に和がやっと戻ってきた。
「徹? 何やってんの?」
自分の机を囲むようにして俺と女子が二人もいれば、その疑問を持つことは当然だろう。
「古里くん、私の課題があなたの机に置いてあったの。古里くんは課題をよくサボっているし、もしかして私が途中まで解いてるのを見ていて、自分が楽するために取ったんじゃあないかってそんな話をしていたところよ」
俺の前では高く可愛らしかった声が、和を前にして低くなった。
「和は小テストでも満……って、あー、ごめん、そうじゃあなくて、和は勉強できる子だし、楽しようって他人の課題なんか盗まないよ」
「そうだよ。ってか、誰がてめぇの課題なんか取るか。だいたい途中までとか何の役に立つってんだ」
「はぁ? 何その言い方。じゃあ何の理由があってあんたの机に私の課題があるの?」
「知らねぇよ」
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