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俺が机に置いたって本当のことを言ったのに、それも和を庇うための嘘になるし、思い込みは怖いなぁと一人傍観者としてこの光景を楽しむ。合っているかも分からない彼女の課題でここまでの問題になるのだから、普段からどれだけ和が嫌われているのかよく分かる。可哀想なくらいだ。
たかが課題くらいで悲劇のヒロインになってしまうから近くのクラスメートがざわざわし始めた。「古里くんが有紗ちゃんの課題を盗んだの?」だなんて、よくよく考えなくとも分かるだろうに。誰がクラスでやっと真ん中くらいのレベルの奴の課題を盗むんだ。
「もう授業始まるし、席に戻ろうよ。和は本当に教室にいなかったし、確認できていないことをあたかも事実のように話すのは良くないよ」
「でも……」
「でも……じゃあねぇよ、俺は知らねぇし、お前の課題なんかいらねぇ。金払うから貰ってって言われたっていらねぇよ。んなゴミなんか」
「和、言い過ぎ」
さっきまで和を押さえ込もうとしていたくせに、彼の圧が強いからか彼女は小さくなってしまった。和の口は悪いけれど彼は何もしていないし正当なことを言っている。それでも周りから見れば、取った取っていないは関係なく女の子に対して暴言を吐いている和が悪者になるのだ。
もう少し手の込んだことを時間をかけて何度も何度も実行しなければならないと思っていたけれど、和の元々の性格もあってその手間が省けそうだ。あと一つ何か大きな爆弾を落とせば、教室中を巻き込んで滅茶苦茶にできるだろう。
早いうちがいいな。この空気感がなくなる前に、今日のこの小さな事件を皆が忘れる前に。和が少なからず傷ついているうちに。
特別に大きな爆弾を、確実に落とさなければ。
「和、大丈夫か?」
放課後になり、誰もいなくなった教室でそう聞けば、やっと目を合わせてくれた。あの時から一度も合わせてくれず、なかなか話しかけられなかったから、目が合っただけで少しだけホッとした。一応罪悪感はあるんだ。けれどその罪悪感よりも自分の欲の方が勝ってしまう。もうすぐ本当に和には俺しかいなくなる。そうすればただの好意が、特別なものに変わるはず。
「大丈夫に見える? 俺は何も知らねぇんだよ。教室出て行って戻って来たらアレだもん。知るかってんだ。それに、マジであの女の課題だっていらねぇ。アイツより頭良いのに盗むかっての」
「和……、今日もお前の家に行ってもいい?」
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