微笑む顔の下で

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「徹、俺……、俺ッ、」 「和、」 ふらりとした足取りで立ち上がり、教室を出ると和は走り出した。 「俺、も、無理、嫌だッ」 「和!」 「離せよ!」 教室を飛び出した和をやっとのことで捕まえると、これまで何を言われても言い返してきた和はいなかった。顔をぐちゃぐちゃにして大きく見えていたその体は傷ついて小さくなっていた。 「ひっ、あ、財布、俺、何も、うっ、あ、」 「和、息吸って、吐いて。過呼吸になってる」 「うぁ、あ、」  抱きしめた俺の腕にキツくしがみつき、噛みしめた唇には血が滲んでいる。 「和、唇噛んだらだめだよ。血が出てる。これ以上はやばいって」 「んぐっ」 無理矢理口に指を突っ込むと、驚いた和は俺の指を噛んだもののすぐに口を開いた。そのまま息を吸うように促し背中を一定のリズムで叩くと少しだけ落ち着きを取り戻したようだった。それでもまだ過呼吸気味だから、俺は何度も耳元で大丈夫だよと囁いた。 「俺はお前がそんなことしないって分かってるよ。大丈夫。大丈夫だから」 「徹……っ、俺、」 「大丈夫。和はそんなことしない。俺の大好きな和は可愛くて優しい奴だもの」 「も、徹がいないと……、」 「ずっと傍にいるよ。誰が何を言っても和の味方だから」 「どうして、ここまで……信じて、くれるんだよ、」 「和のことがそういう意味で好きだから」 その言葉に、ぴたりと和の涙が止まった。これからゆっくり俺の言葉の意味を考えるであろう和に、その隙さえ待てないとでも言うかのように唇を奪う。一瞬固まったものの、すぐに肩の力が抜け、俺を受け入れてくれた。 ──和には俺しかいないんだから。やっと望んだ瞬間がやってきたんだ。 「くはっ、はははっ、面白い。面白いなぁ」 「……和?」 唇が離れ、次に目が合う時には、弱っていた和は消えていた。お腹を抱えて目には涙を滲ませながら俺を笑っている。 「徹はもう僕のものになったってことだよな? 自分がそう言ったんだから、今更取り消しとかやめろよ?」 ──僕? 何なんだ? 「ここの市立図書館って大きくて充実してるからわざわざ通っていたんだよ。そうしたら徹を見つけた。クラスメートと勉強会でもしてたのかな? 中心にいてキラキラしてた君は目を惹くし、興味を持った。でもおかしくてたまらなかった。だって、誰も気づいていないんだ。君が“そういう”人間だってこと。同類にしか気付けない」
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