微笑む顔の下で

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きっと俺だけじゃあない。このクラスのほとんどが同じように考えただろう。この自己紹介を見ていて、彼が積極的に俺たちに関わりを持ちたいと思っているとは感じられないし、線を引いて内には入らせないとでも言うような表情をしている。 どうなる? このクラスでの彼の立ち位置は? 「じゃあ古里くんは、早坂くんの隣に座ってくれる? 後ろのあそこ、空いてるでしょ?」 仕組まれた運命かのように、彼は俺の隣の席を指定された。興奮で指先が踊る。俺はトトントンと、机にリズムを刻んだ。 「和くん、よろしくね」 「ッせ、和って呼ぶな。下の名前嫌いなんだよ」 「へぇ、じゃあ尚更下の名前で呼びたいなぁ。和くん?」 「てめぇ喧嘩売ってんのか」 緩む頬を隠すことなく、彼を見つめた。彼の形の良い唇からは汚い言葉が紡がれる。支配される要因。第一印象は最悪だ。この俺にそんな言葉遣いをするなんて、何も知らない彼はそうして自分の首を絞めていく。 「早坂くんにあんなこと言うなんて」 「何だか感じ悪いね……」 近くの席の女子たちのそんな会話が聞こえたらしく、和はあからさまにチッと舌打ちをした。あの時に噂をされ、学校に来られなくなってしまった彼とは違う。和は周りの発言など関係ないようだ。転校初日でこの態度とは、今後勝手な噂をされたとしても本人は何も変わらないだろう。 操作される側の人間なのに、支配されることはないって、それは……。 「面白くないなぁ」 「は? 何言ってんだてめぇ」 あの時の彼は支配されてしまい学校に来られなくなった。操作される側の人間はそうして当たり前を奪われていくしかないのだと思い込み、だからこそ操作される側の人間になるものかと誓ったのだ。何を言われても、思われても、全く気にしない強さを持つという考えはあの時の俺の中には無く、それでここまで来たのだから彼が支配されないでそのままいられるというのは正直気に入らないし面白くもない。
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