微笑む顔の下で

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──彼の強さを壊してみたい。 せっかく俺のイメージが固定され、信頼を得ることができたのだから、それを使って試せることがあるはずだ。 「刺激のある日常は好き? 和、俺と仲良くしようよ」 まずは、仲良くなるところから。 「だから下の名前で呼ぶなって言ってんだろ。何回も言わせんなよ。お前ってバカ?」 「いいじゃあないか。和って可愛い名前なんだから」 「それが嫌なんだって分かんねぇの? どう見たって俺に可愛いは似合わねぇだろーが」 「自分がそう思いこんでいるだけじゃあ? 案外可愛いが似合うかもよ」 さっさと席に着けばいいのに話しかけた俺に向かってギャンギャン吠えている和は、周りからの目線なんか気にも留めずに、俺の机に手を付いてバンッと叩いている。 どこかほわんとしている担任だけは「早速仲良くなったのね」と笑っているものの、クラスメートのほとんどは冷たい視線を彼に送っている。「構ってあげている優しい早坂くんに対して失礼な態度を取る古里くん」というイメージが付いたところだろうか。 「俺は早坂。下の名前は徹(とおる)。徹って呼んでよ。君のこと和って呼ぶから。気に入らなくてもそうしたいな」 「徹って呼んでやるから、俺のことは古里って呼べ」 「いいや、和って呼びたい。君が無視しようものなら、俺はずっと返事をしてくれるまで和って呼び続けるから」 「……っ、もう勝手にしろバカ」 絶対に許してもらえないと思ったけれど、意外にも早く折れてくれた。面倒だと思うのなら始めから俺のことは無視していただろうから、これ以上言い返したところで無理だと分かってくれたのだろう。 「和、お前の家ってどこら辺?」 「どこら辺って言われても引っ越してきたばかりで分かんねぇよ。近くに大きなスーパーと小学校があったけど」 「おっ、じゃあ俺と同じ方向だと思う。今日から一緒に帰ろうよ」 「はぁ? 誰がお前となんか」 他の奴らとはできるだけ関わらせたくはない。話をする中で和という人間を知ってしまえば、もしこのイメージと正反対だった時に操作できなくなってしまう。「意外と良い奴じゃん」と思わせてはならないのだ。強さを壊すためには、このクラスメートと和がそれなりの友人関係を築くことは許されない。 まずは俺だけが関係を築いてどういう人物なのか探りを入れ、それでやっぱり操作される側の人間ならば──。 
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