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「和、今日のテスト、満点だっただろ? 良い点数取ってたんだから、アイツらの会話に混ざれば良かったのに」
数学の授業の後半に行われたテストは、「この問題が解けるようになれば今度の期末テストは満点近く取れるだろう」なんて言っていたからか、授業終わりに採点をしてわりと点数が良かった奴らが興奮して騒いでいた。
ここで和が満点だと知られ、「古里くんって頭が良いんだね! すごい!」と尊敬される展開になるのは困るけれど、励ます振りをしてそう話しかけてみた。
放課後の教室は俺と和の二人きりで、それで落ち着いているのか和は窓の外を見ることはなく俺の目を見つめている。毎日毎日しつこいくらいに話しかけているせいか、最近では和呼びに嫌な顔をすることもなくなり、それどころか目を合わせてくれる回数も時間も増えた。
周りは「古里くんみたいな子も気にかけてあげるなんて、本当に早坂くんって優しいんだね」とそんなことを言うし、益々俺の好感度が上がっている。あの時の彼を庇って言われたのと同じような言葉でも、今言われると嫌な気はしない。
そうだろ? 俺は優しい人間なんだ。
「和、お前……みんなと仲良くする気あるの?」
「別に仲良くしたくねぇし」
「そんな可愛くないことを言うなよ」
手を伸ばし、和の髪へと触れる。優しく撫でれば、しっぽを踏まれた猫のようにギャンと怒った反応を見せた。
「頭に触んな! ってか、可愛さなんか求めてねぇからいいんだよ。それに、しつこくお前が話しかけてくるから、それだけで俺はウンザリだし、これ以上はいい……」
俺の手を強く振り払った和の手は、申し訳なさそうに彼の膝の上で大人しくなった。少し前までなら振り払った後に一発俺の頭を殴るくらいはしていたその手が、強く叩き返し過ぎたかもしれないと、反省しているように見えてくるから不思議だ。
「ねぇ、和。それってまるで俺だけがいてくれればそれで良い、みたいに聞こえるんだけど?」
「ッせぇ! んなこと言ってねぇだろ。うるさい奴はお前だけで十分だって、それ以上は相手にできねぇってことだ! バカ!」
教室から誰もいなくなるまで、ましてやいなくなってからも中々席を動かない和を、いつもは俺が無理矢理立たせて連れて帰るというのに、俺の発言に怒ったのか今日は自ら立ち上がってくれた。
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