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「俺だけで良いって思ってもらえるのは嬉しいなぁ」
それが面白くて、もっとからかいたくなり、顔を覗き込んでさらに怒らせるであろうことを呟いた。
「だから誰もお前だけとかそんなことは言ってねぇだろーが。それとテストだけど、俺はこういう見た目だから、今回のテストは満点だったぜとか言って話に入れば、早坂くんのカンニングしたんじゃあ? とかってあらぬことを言われたりするだろ。そうしたらお前にも迷惑がかかるし、俺にとっては面倒なんだよ」
怒っているのかと思ったのに、この時の和は泣きそうな顔をしていた。……何だ、全然強くないじゃあないか。
「和?」
「もうそういうの、面倒なんだよほんと。見た目で判断されるのは疲れんの」
「……和の見た目は可愛いよ?」
「はぁ……、徹、お前の目は腐ってる」
彼は強いんじゃあなくて諦めているだけだと分かった。何を言われても自分を持つことができるだとかそういうことはなくて、ただ「古里和とはこういう人間なんだ」と知らないのに決めつける奴らとの関わりを絶っているだけだ。自分を守るために、周りの奴らをきちんと見極めていて、関わりを持ちたい人を選んでいるのかもしれない。
そんな和が俺を選んだ? 和を利用して遊ぼうとしている俺を、自分を理解してくれる、それこそみんなの言う優しい人だと思って?
「そうかな? 和の方が腐ってるんじゃあ?」
「はぁ?」
「和は可愛いよ」
可愛い。可愛いよ。そういうバカなところは最高だと思う。もっと大変で時間がかかると思っていたのに、和の中で俺はあっという間に「優しい人、良い人」に昇格していた。周りから孤立している自分にどうして毎日話しかけるんだろうとは考えなかったのか?
野生動物のような和を手懐けることができて浮かれるこの感覚は何と名前を付ければいいのやら。
「和、そろそろ帰ろうか。今日はどこか寄り道して行く?」
「徹の奢り?」
「え? 俺が奢らないと寄り道してくれないの?」
「……まぁ別に奢りじゃあなくてもいいけど」
和という人間をもっと知りたい。他にどんな可愛いところがあるのだろう。どこまで俺を信じて、気を許してくれるようになるのだろう。
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