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士官用カフェテラスの一角がしんと静かになった。マルミは小柄な身体をさらにちいさくしていう。
「わたし自分の赤ちゃんをこの手で抱いてみたいの。進駐官には無理な夢なのかなあ」
タツオの胸にも狂おしい力があふれそうだった。マルミほど切迫していなくとも、いつか自分の子どもをもつという夢はある。
サイコが手を伸ばして、マルミの肩にそっと手をおいた。昂然(こうぜん)と顔をあげていう。
「わたしの意見も、マルミと同じよ。この戦争と女性としての幸福は別なものだと思う。どっちも諦める訳にはいかない」
なぜかひどく冷たい目で、タツオを見つめてきた。冷たいだけでなく、目の奥には微妙な熱と炎が潜んでいるようだ。
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