27(承前)

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 タツオは背中に嫌な汗をかきながら思いだしていた。サイコはすべてが片づいたら、兄・カザンの仇を討つためにタツオに決闘を申しこむといっていた。日乃元ではいくつかの条件が整えば、復讐のための決闘は法律で認められている。進駐軍のなかでは非公式に推奨されているほどだ。兄を殺されたサイコには、決闘の理由も合法性も確かだった。第一、近衛四家の名門、東園寺家の次期宗主が兄を殺されて、黙っている訳にはいかなかった。いかに進駐官養成高校で発生した格闘戦中の不幸な事故とはいえ、タツオがカザンを手にかけたのは間違いないのだ。  自分は本土防衛戦に勝利を収めても、目の前にいるサイコに倒される運命なのだろう。この人を相手にして、本気で倒しにいくなど、タツオには考えられなかった。初めての口づけ相手で初恋の人といってもいい幼馴染みだ。  タツオはリーダーの癖に、ひとりで感慨にふけり過ぎていたのだろうか。閃(ひらめ)くような心の動きはほんの数秒だったようだ。  サイコの言葉はまだ続いていた。 「女としての幸福は、本土防衛決戦で日乃元を守り切ってからの話だけど。わたしの五王の新薬に乗るわ」
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