SATORI (聖なるもの)

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 私の名は いや もう名前などなんの意味があろうか? 宕野山(とうやさん)の中腹にある洞窟に籠って かれこれ二十七年 悟りを開かんと  経を唱え続けて そして 二十年の年月を経て いつのまにか 年号が変わっていたことも知らず ただひたすらに 闇の中で 瞑想を繰り返しては 悟りを得ようとばかり 思う日々 しかし いつまで経っても 闇ばかり 闇 闇 闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇 気がつくと 視力を失っているような錯覚を いや 実際 闇のなかでは  見えるものなど ないのだから 視力が あってもなくても 判断つかないのだが。 そんなことも どうでもよくなり そのうち 山の獣達の吠える声が 聞こえてくるようになった。 いや 獣だけでなく 小さな鳥の囀ずりも そして 小川のせせらぎの音 山の中腹の洞窟では 聞こえるはずもないと思っていたが 案外 山は 静けさに満ちては居ず  いろいろな音に包まれていることに気がついたのは 十年くらい前か? そして さらに 月日が 私に 自然の声を聞かせてくれるようになった。 動物達は 人間達と同じように 語り合い 語るとは思わなかった木々も いろいろと語り合いをしていることに いや 木々だけではない 自然 そのものが 唄を唱ったり ひそひそ話をしたり 実際は 幻想なんだろうと初めは 思っていたのだが しかし  その声に 自ら 話しかけてみた。 その時は愚かなことをしていると 自分でも呆れていたが すると 「おまえさんは 洞窟のなかにいるにんげんだなぁ やっと われわれと会話ができるようになったかぁ」 と  誰かが 答えてきた。 半信半疑だった私は 「これは自分が自ら考え出した妄想だな」 と 独り言を呟くや 「いやいや にんげんの常識は ここでは 要らぬものよ。それを取り除けば おまえさんの望む悟りとやらが 見つかるかもしれんぞ」 「あなたはいったい どなたなんですか?」 「そうじゃのぉ お主らの言葉だと。。。山の精かのぉ」 「教えてください 私はこれから先 どうしたらよいのでしょうか?」 「なぁに。。。何もせず ただじっとしておれば、今回のようにまた次の段階へ 進むのではないかのぉ」 「ただじっとですか 会話を続けていてもよいのですか?」
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