色と欲

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「寒くないの?」 「寒くない」 「寒いだろ、そんな格好じゃ」 「やめて。 平気だから」 突然、背後から現れ、そんなこと言いながら私の肩にコートをかけてきた人間。 黒の男物の上着が、私の体をスッポリつつむ。 「起きたんだ?」 顔をあげ聞いたら、相手がため息をついた。 「起きるだろ。 そりゃ」 「………………」 黙り込む私の隣に腰をおろし、浩平は苦笑してた。 泣きそうになってることバレたくなくて、私は膝の間に顔を埋める。 アパートの階段のフットライトは薄暗いから、きっと大丈夫だと思うけど。 浩平は、こちらに目をむけず、アスファルトの先の縁石を眺めて言った。 「何してんだよ、アイツら。 バカ」 「病気じゃない? 二人とも」 「違う。 当て付け。 オレへの」 「どういう意味?」 「告られて振ったから、この前。 仕返しのつもりだろ?あの女」 「だからって、そんなことするような子じゃない。 由衣は」 「あ、知らない? けっこう、えげつないとこあるよ? アイツ」 「………………」 私はぼんやりと、この前、飲み会で盛り上がってる最中に、先輩と二人で、こっそりトイレに消えていった由衣の背中を思い出してた。     
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