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昔、誕生日は特別な日だった。
母は、厳しい人だった。自分にも、私にも。大人になって思ったことだが、いつもきちんとした献立を考えて夕食の準備をしていたと思う。好き嫌いなんて許されない。
だが、誕生日ばかりは私が好きなもので食卓をうめてくれた。ハンバーグやらグラタンやら、手巻き寿司やら。そして、お腹いっぱいなところへケーキが登場する。
ケーキなんて、誕生日くらいしか食べられない憧れのものだった。真っ白なクリームに覆われ、真っ赤なイチゴが7個のっている丸いケーキ。真ん中の一個はいつも私にくれていたっけ。
だが、いつの頃からか誕生日は普通に過ぎていく一日になっていた。完全に忘れることはないけど、意識もしない、壁に付けてしまったボールペンのあとのようなもの。日常に変化をもたらすものではなくなった。
コンビニのイチゴのショートケーキは、誕生日がまだ特別な一日だった頃を、はっきり想起させた。
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