あの頃のぼく

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 当時の僕は、なにも恐いものがなかった。今ほど世間を知らず、いつまでも自由な時間があるように思っていた。代わりに自由にできるお金も少なかったが、そんなことはあまり気にならなかった。夜ふかしは日常茶飯事。一晩や二晩くらいは平気で、君や学校でつるんでいた友人らと遊び呆けていた。  だから、あちこちで無理があったように思う。テレビから流れてくる映像は『映画』くらいに思っていたし、興味のない事柄なんて『外国語』。はなから気にも留めなかった。それよりも誰彼が付き合っているとか、近所のお店に可愛い女の子が働くようになったとか、自分から見える範囲が全てだった。もちろんそれはぼくだけではない、大学の講堂に座ればいつもの顔ぶれが挨拶もそこそこに語り合った。不思議なもので、どんな授業を受けていたのかはろくに覚えていないが、そこでのテーマだけはよく思い出せる。可愛いあの子に今度は声をかけてみようかなとか、喧嘩しているカップルの話から男性女性のあるある話に花が咲き、そして、  「じゃあ、いつものところで」  白いノートをそそくさとしまって、自分たちの授業へと消え去っていく。授業の記憶がないのだから大学の記憶はそこまで。後はいきなりぶつっととんで、授業が終わった夕焼け空で思い出される。「いつものところ」とは駅近くの喫茶店。君と出会ったのもその喫茶店だった。君はきまっていつものテーブルで同じ顔ぶれの女性たちと楽しそうに話しをしていた。
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