あの頃のぼく

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 !。うかつなぼくは、君があのテーブルだけに座るとばかり頭から信じ込んでいたんだ。だから違うと言うべきところで、なのに絶句してしまっていた。どうやら少し離れたテーブルにいたようで、それに早とちりをしてしまったみたいだ。探していた人から急に声をかけられ、驚いたのはもちろんながらそれ以上の気持ちすら隠し持っている。身がすくむとはこのことだ。でもそれも少しの間だけ、君がそこで初めて見せてくれた気持ちというか大袈裟に言えば生きる姿勢というものに、ただただやられてしまったのだ。  「何度か顔を上げていたから、笑い声が気になったのかなって」  それで、って言い終える前に笑顔になった。  どうやら見当違いをしている自分に気が付いて笑ったようだ。普段なら絶対にそんなことはできない自分が、全然いいっすよ笑顔見ていて気持ちいいっすから。よく覚えていないけれど恥ずかしいことを小さめに声にしたようには思い出せる。  「そうなんだ。ありがとう」  話した時間はほんのわずか何十秒かの世界だったけれど、帰り道が別世界のようだった。その日はどうやって歩いているのかよく分からないくらい必要以上にスピードが出た。鋭角な三叉路も綺麗に曲がれたし、優しい気持ちが、道端の電柱や石に、通り過ぎて行くお爺ちゃんに向けることができた。これまでとは一変、つまり目の前の景色が違って見えたんだ。その時のぼくの世界は満たされていたんだ。 「そうなんだ。ありがとう」この言葉がぼくをどれだけ縛り付けられたのか、とても言葉にできない。起きれば頭によぎったし、眠ろうと目を閉じれば鮮やかに思い出せた。あんたご飯食べてるのという電話口からの母親にも、お門違いの角度でお礼が出てしまうくらい。
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