ママ、

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ママ、

「ねぇ、駆け落ちしない?」 放課後、塾の帰り。 いつも乗る電車に乗ろうとした、僕の制服の裾をつかんで声をかけてきたのは、幼馴染の栞だった。 幼馴染と言っても高校は別のところに通っているから、なんだか久しぶりな気がした。 どうしてこんな時間にこんなところにいるんだろうとか、駆け落ちってどういうことだろうとか、電車行っちゃったなとか、そんなことを考えながら呆然とする僕に、栞の切れた唇が微かに動いてまた告げる。 「駆け落ち、しない?」 僕に向かって話しかけてるはずなのに、全然僕の顔を見ようとしないから、見下ろした先の栞の瞳は、長いまつ毛に隠れてよく見えなかった。恐らく乾燥で切れたのであろう唇の端には、血がにじんでいる。 「いいよ。」 気づいたら、なぜか僕はそう返事をしてしまっていた。 栞は驚いたように顔を上げてから、なんだか苦しそうに笑った。 そうして僕らは、寒い寒い冬の夜、海に向かう電車に乗り込んだ。
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