6人が本棚に入れています
本棚に追加
「手が、手が勝手に・・・・」と大騒ぎした妻に、対処方法が分かっている病気で、きちんと対処すればすぐにおさまるのに大げさだな、と昭雄はその時笑った。
だが。
手首だけ90度折れ曲がって掌を下に向けた状態で、ぴんと真上に伸びきった自分の右腕を見上げて、昭雄はこのおかしな病気がどれ程恐ろしいか、身をもって知る。
掌の向こうの真っ青な空さえ恐ろしい。
得体の知れない恐怖で舌まで痺れた口から、よだれが垂れた。
そして。
助けて、と言うことさえできなかった昭雄の右手に、「きゃあっ」と叫びながら、女子高生がつかみかかった。
昭雄の目には、それはもう勇ましく、格好良く映った彼女は、右手でがしっと握手するように掌部分を握り、左手は腕をまるごと胸に抱き込むようにしてくれた。
きゃあきゃあと甲高い声が頭上から降ってくる。
だけど、そんなのは何でもないことだ。
「うわ、もうこれシャレになんねー。こわいって!」
女子高生の勇気に触発されてか、男子高生も昭雄の肩に手を置き、高く差しあがったままの指先を握りしめた。
ド、と遠くで何かが落ちる音がして、一番離れていた青年も駆け寄ってくる。
「そ、袖、袖をまくらないと」
青年がからからに干からびた声でそう言うと、女子高生が身体を離して、震える手で袖を下にさげようとした。だがうまくさがらない。
最初のコメントを投稿しよう!