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ぴく、と右手の人差し指がはねた。
昭雄は右手の先端を仰ぎ見る。
まだ女子高生が握りしめたままの右手の指先がぴくぴくと痙攣して、ごく弱くではあったが彼女の柔らかい手を握り返せた。
あ、と彼女の顔に喜色が広がる。
アイメイクが灰色に滲んでしまった目をさかんに瞬かせて、さらに強く昭雄の手を握り返してくれた。
「・・・・ああ、ありがとう。君、ありがとう」
やっと声が出た。
昭雄がぎこちなく手を開くと、女子高生はぱっと手を離した。
懸命に袖をまくって、手首のあたりを握ってくれていた青年もほっとしたように手を離す。
肩にぐっと圧力がかかって、中腰になっていた男子高生が立ち上がった。
「ああびびった。ほんともうありえねー」
「あたし、お姉ちゃんがなったから。一度見たことあって・・・」
「ああそれで? 松本、かっけーって俺感動したわ」
「す、すみません。俺、逃げそうになってて」
青年の謝罪に、昭雄は「いや助かったよ」と返したし、高校生らもさっぱりした笑顔を返した。
照れくさそうにはにかんだ青年は、昭雄のカバンとハンカチを拾ってくれた。
そして、日常のバスが来た。
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