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ヘンリが首なしと呼んだ生物…それはヘラクスと呼ばれる生物兵器である。
この町はかつて商業都市として栄えていた。しかし5年前に起きた国家間の戦争で攻撃を受けた。
生物兵器を使った攻撃で多くの人間が死んでその時に使われた兵器がまだ町の中をうろついていた。
ヘンリが14歳の時に家族は戦いに巻き込まれて死んだ。それから反乱軍に入り敵と戦っていたが味方が次々と死んで今はこの町に一人で住んでいた。
戦争は3年程で終結した。しかし町の生物兵器は回収されずに町全体が封鎖されて外に出られない状態になった。
ヘンリは空っぽの店の棚に並んでいた携帯用のガスコンロで賞味期限の切れた食料を熱処理して食って生き延びていた。
この日は廃ビルの3階の部屋にヘンリは泊まった。住居は毎日転々と変えていた。
携帯ラジオから流れるのは女性歌手が歌うR&B、そして曲が終わるとDJが次の曲を紹介する…いつもの番組を聴きながらヘンリは暗い部屋でくつろいだ。
ラジオの番組を聴く度にいつも思った。
ここから脱出できないのかと。
そして町から出ようとする度に沢山の銃弾と砲撃を受けて命からがら引き返した事を思い出して反省した。
地下の下水道沿いに逃げようとしたがヘラクスや動物型の生物兵器が見張っていて諦めた事もあった。
ヘンリはラジオを切ってソファに横になって眠った。
翌朝、ヘンリは廃ビルを出て路地裏に入った。
そこには雨水を貯めたバケツが並んでいた。
ヘンリはバケツの中に水筒を突っ込んで水を入れた。それが今日一日分の飲料水だ。
ヘラクスとは見つかった時だけ応戦した。倒してもきりがないからだ。先の銃撃戦もヘラクスに見つかって追われていた為だった。
誰かが助けに来てくれるという願望はとっくの昔に捨てた。
寝る前に聞くラジオからいつも陽気なDJがかける音楽と生真面目な男や女が語るニュースが流れる。
この町は化け物がはびこる見捨てられた場所だと思った。
建物の陰に隠れ大通りの様子をうかがいながらヘンリは歩道を歩いた。
ひっくり返った車の窓から白骨化した手が伸びていた。
死臭がひどいので見つけたら出来るだけマンホールから下水道に投げ捨てていた。それでもこうして遺体が突然見つかる事がある。
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