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何で、私は彼女にキス、なんて。
こんなにも自分自身が感情を抑えられない人間だったのかと、心底絶望した。でも、これは一種の賭けだ。恋を勝ち負けで決めるのならば、美江が私の指を拒まなかったからチャンスだった。だから賭けた。勝率はあるのかもしれないと思ったんだ。
私の経験と洞察力から、あながち間違っていないはず。美江は私と同じ心情の持ち主だと踏んだ。正解でしょ、美江。私は、負けじゃないでしょう。
「……嫌い、じゃないの?」
「うん。嫌いじゃないよ。ねえ、これがどういう意味かわかる?」
「……わからない」
「好きって意味だよ」
そう美江に告白すると、美江はまた大粒の涙を流した。綺麗な顔がくしゃくしゃになって、子供のように泣き喚く美江が、本当に可愛くて今すぐ抱きしめたくなった。
「嘘だ」
「本当だよ」
「だって、涼子にはお兄ちゃんが」
「うん。お兄ちゃんには、申し訳ないね」
私の首に手を回し抱きついてきた美江の体を、心を通わすようにぎゅっと抱きしめ返した。それよりも、私のことを呼び捨てしたことが、より彼女を愛おしいと思う。
「ねえ、美江」
「何、涼子」
「私は、あなたの兄とは結婚できない。彼の奥さんにはなれない。ごめんね」
「……あなたに言った言葉、本気じゃないよ。涼子を……困らせたかったの」
数時間前までなんて性格の悪い女だと思っていたのに、この発言が私の心の中に沈んだ美江への気持ちを再浮上させ、感じ取ることのできなかった私の方に問題があったとか、そういう風に捉えてしまった私の方が性格が悪いと思わせてしまう、上手く表現できないこの全てを帳消しにするような感情を、今でこそ感謝したい。
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