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「涼子を貸すって、どういう意味?」
「ほら、もうすぐお母さんの誕生日でしょ? 一緒にプレゼント選んでもらいたいんだよね」
「母さんのプレゼントを?」
「うん。だって、将来お兄ちゃんの奥さんになっているかもしれないし」
意味がわからないんだ。どうしてこうも理不尽に距離をつめようとするの。私があなたに言いたいことはそういうことじゃない。
私はあなたに近づきたくない。兄を通して、妹という切っても切れない遠い距離から関わるだけでいい。だって、私とあなたは友達でもなんでもないから。どうなっても私とあなたは兄の彼女と兄の妹という関係でしかない。この関係が友達以上になることはない。例え兄の彼女という枠を超えたとしても、それは上辺だけだ。それ以上にはなり得ない。絶対に。
「美江ちゃん。奥さんなんてまだ早いよ」
「そうかな? お似合いだと思うよ」
「あんまり涼子を困らすなよ美江」
「涼子ちゃん貸してくれないの? お兄ちゃん」
「……まあ、涼子がいいっていうならいいけど」
……ああ、居心地悪すぎて気持ち悪い。
お願いだから寄ってこないで。それ以上、私の感情範囲には進入禁止。私がいいなら、美江と母親のプレゼント巡りって……そう言われたら、断れないじゃない。これだから、優しいだけの男は、厄介なの。
「どう? 涼子」
「……うん、いいよ」
「やった! ありがとう涼子ちゃん! じゃあいつにしようか」
自分が嫌い。結局いい格好をして、相手に合わせて笑顔を作って、心の声なんて一ミリも外に吐き出せやしない。
どうしてこんな人間になっちゃったんだろう。自分が望んだ自分はこうじゃない。何故自分が望んだ自分にはなれないんだろう。そんなに嫌なら、捨てて手にする努力をすればいいのに。
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