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ここまで強情な妹は初めてだった。
誕生日会が終わり、兄が車で私を駅まで送ってくれると言ったところで、何故か妹の美江が車のキーを奪い、私が送ると言い出した。事故でもしたらどうするのか、と兄が何度も妹を制したが、妹は言うことを聞かず私の手を引いて外へと飛び出した。
私は内心びくびくしていた。こんな初めての経験に、もしかして妹は2人になったところで、私への不満を爆発させるのではないかと。兄と別れてくださいだとか、あんたのことずっと嫌いだったとか。母親のプレゼントを選ぶというのもただの口実にすぎないのかもしれない。
助手席に座る私の隣で、ただ真正面を向いて一切喋らずに運転する美江がいる。
この沈黙は、別に嫌いじゃない。あれほど怖かった美江との空間も、いざ経験してみると先ほどの気持ち悪い空間よりも居心地はいいものだ。
3人で同じ空間にいる時、明らかに私の意識は私の隣の人物に向いていない。真正面にいる笑顔の人物にびくびくしているんだ。行動全てに怯え、発言に嫌悪し、今すぐに飛び出したいと思うほどの焦燥感に駆られる。
この2人での空間は、まさしく私が求めていたものだ。
私の家まで後約2分ぐらいかというほどの交差点で信号が赤になり、美江が運転する私たちの車が停止した。
「涼子ちゃん。いきなりこんなことして、ごめんなさい。お兄ちゃんに送ってもらいたかったでしょ?」
「大丈夫。気にしないで」
「本当はお母さんのプレゼント選びも、一緒に行きたくないんじゃない?」
「え?」
「ほら、涼子ちゃん。私のこと、嫌いでしょ」
美江の言葉に、私の心臓が、大きく跳ねた。
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