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まさか、美江の口から本当に私が想像していた恐れた言葉が出てくるとは思っていなかった。だって、どこかで美江はそんなことを本当に言葉にする人とは思ってもいなかったから。
私の中の美江は、本当に嫌いな私のことをのけ者にしようなんてする子じゃない。心の中で、すぐに兄と別れて欲しい、なんて感情を持っていたとしても、それはただの心の中の自分にしかわからない言葉で、それを現実に口にしてしまうような子なわけない。
「嫌いって……どういうこと?」
「そのままの意味だよ。私のこと、嫌いでしょ?」
「待って。どうしてそんなこと言うの?」
「この際好きか嫌いか、はっきりしておきたいなって思って」
「だとしても、今言うことじゃないでしょ」
「今言うことだよ。だって、今後2人だけになれることなんてないかもしれないし。涼子ちゃんが今嫌いだって言えば、二度と私と涼子ちゃんは会わない。母親のプレゼント巡りだって行かなくていいんだよ」
なんてむちゃくちゃ。私の一言で、私の人生も美江の人生もぶち壊しにしてしまうような質問。何を望んでいるのか全く私には理解できない。
もし私が美江のことを嫌いだと言えば、私と美江が今後一切会わないどころか、兄との関係にも亀裂が生じ、最悪の場合私と兄は別れることになりかねない。
ああ、彼ともう二度と会えなくなるなんて、私には耐えられない。
「ねえ、嫌いなの?」
「唐突すぎるな」
「教えてよ」
「……じゃあ、教えてあげる。私、美江ちゃんのこと、嫌いじゃない」
「……本当?」
「本当だよ」
「……じゃあ、好き?」
「……は?」
美江の綺麗な横顔に投げかけた言葉が宙に舞い、車が急発進した。
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