0人が本棚に入れています
本棚に追加
質問は、好きか、嫌いかだ。確かに嫌いではないとすれば、好きしか残らないわけだけど。
車内には、私には理解不能な沈黙空間が存在している。
「……あの、おかしくない? 好きか嫌いかって」
「だって、嫌いじゃないってことは好きってことでしょ?」
「確かにその二者択一ならそうなるけどさ。でも、やっぱりおかしいよ」
そう発言した直後、車が私の家の前で停車した。
「着いたよ」
何事もなかったかのように今まで通りの笑顔で美江は私に声をかけた。急かすように私のシートベルトを解除し、私の鞄を手に持ち私に渡してきた。
「あの……美江ちゃん」
「ん?」
「さっきのことなんだけどさ」
「もういいの」
「……え?」
「もうどうでもいいの。ただ涼子ちゃんを困らせたかっただけだし」
「困らせ、たい?」
「だって、面白いんだもん。私の言葉にびくびくしてたでしょ。なんか、からかいがいがあるなと思ってさ」
美江は、私をバカにしている。改めてそう思った。
この人の心の中にはやはり、深い闇以上のどす黒いものがあるのだと。兄の彼女だとしても、ただの同い年の女だ。今まで数々見てきた性格の悪い女の中の一人でしかない。
これ以上下手に関わると命の危険に晒される可能性もある。今気付いてよかったのかもしれない。彼女から離れるには、兄とも別れるのが一番だ。こうなってしまった以上、そういう道を選ぶほかない。
本当に、残念で仕方ない。私達の関係も、ここで終わり――
「……ごめんなさい」
無言で助手席から出ようとした瞬間、彼女の口から消え入るような声で心情が吐き出された。
最初のコメントを投稿しよう!