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私が到着して最初に抱いた印象も、ああ、よくある東欧諸国だなというありきたりなものでしかなかった。では、なぜその国を訪れて、首都に1年も滞在したのかと言われたらたんに仕事の都合でしかない。話の本筋とは関係ないので、私の仕事の詳細については省かせてもらう。大雑把に言えば貿易関係だ。
ともかく住んで半年くらいたった頃だ。私は比較的長い休暇をもらったので、地方へ観光旅行に出てみることにした。歴史的な遺産ともいうべき建築物が多い国にも関わらず、私は職場と部屋くらいしか知らなかった。せっかく外国にいるんだから他の場所にも行きたくなる。
地方の街をいくつかまわったが、なかなか良かった。田舎料理も食べれたし、地元の住人とは英語が通じなくても身振り手振りで交流も出来たからだ。
後は首都に戻る特急列車に乗って帰れば、観光旅行もすんなり終わったのだがそうは行かなかった。それがいかにも旧社会主義国家らしさでもある。来るはずの電車が待てど暮らせど来なかったのだ。やがて日が暮れ、夜になっても列車は来なかった。
身の安全を考えると、とても駅で一晩過ごせそうにはなかったから、その街で急遽宿を探した。悪いことは重なる。そんな時に限って適当な宿がまるで見つからなかった。手頃な値段のホテルは空室がなく、設備がましなホテルは高すぎた。かといって治安が悪い地区の安宿に止まる度胸も私にはなかった。
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