第一章 理想の人

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第三章 ある決意 「――やっぱり行ったほうがいい」 一枚のはがきに視線を落としたまま棒のようになっているわたしに郁生がきっぱりと言う。 同窓会の通知。 学生時代のわたしは美しくはなかったけれど、腰の位置が高くてスラリとした形のいい脚は唯一の自慢できるものだった。 けれど現在、姿見に映った脚はひどいものだ。まず両腿に隙間がない。ピッタリと閉じていてコピー用紙一枚だって入らない。膝のあたりに弛んだ肉がブヨブヨともたついていて、最悪なのはふくらはぎだ。後ろからみたふくらはぎの形はまるで一升瓶そのものではないか。 「だめよ。仕事が忙しいし……そう。締切が近いのよ」 「ほんの数時間出掛けるだけじゃないか。創作の仕事は家にこもってばかりいたら枯渇してしまうよ。行っておいで」 家のことはいいから、と少し目尻の下がった優しい二重の目に見つめられて、行ってみようかなという気持ちになってくる。 たしかにここ数日、仕事が行き詰っていた。郁生のいうとおり、外に出掛ければ気分も変わって何か創作の糧をえることができるかもしれない。それに学生時代の友人の顔を思い浮かべると、急に懐かしくなってくる。昔のように楽しくお喋りもしたい。 週末の終電は揺りかごのようだ。気だるさと心地よいまどろみに包まれて、それぞれの終着駅へ向かう。 そんな車両の中で、わたしは口をヘの字にして泣きたいのをこらえて下を向いて居眠りをしているふりをした。 同窓会へ行く電車の中で、わたしは友人たちに太ったと指摘されたら、どうやって返したらいいか考えていた。独身の時の服が入らなくて不便なのよ。と泣き顔の一つも見せるか、笑いながら開き直るか、頭の中でシミュレーションをくり返した。 そういえば友達グループのなかでも、二、三人太り体質がいた。あの頃、運動が苦手だった彼女たちは、水を飲んでも太ると嘆いていた。そうだ、年を取れば代謝が鈍るから、太って悩んでいる仲間がいるはずだ。 けれど、わたしの予測より現実はシビアだった。 私立の元女子大生は、わりとゆとりのある家庭の子女がおおい。幸いにも結婚後もゆとりのある生活を続けている友人たちの関心は、ジムの新しいマシンや流行りのダイエット、予約を取るのが困難なカリスマ美容師などの話題で溢れていた。
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