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意識を集中させていたグレイの肩が大きく動き硬直する。
「───…!」
突然プツリと途切れたルナの気配。グレイの顔色が凄まじい怒りを露にしていた。
「リドリっ…」
歯軋りした唇から太い威嚇の声音が吐かれる。
鋭い牙が剥き出しに伸び、グレイの肩から大きく太い骨組みの黒い翼が浮き出すと、それは広く羽を拡げ力強い煽りを数回繰り返していた。
グレイの身体が宙に浮く。
鋭利な爪が指先から伸び、真の魔物の長の姿を現しながら、グレイはゆっくりと真っ直ぐに上へと上昇していった──
刻印が消された。
グレイにはそれが直ぐに伝わる。
「そこまで覚悟したかリドリーっ…」
ぎりっと食い縛る牙が軋み、それはグレイ自身の唇を傷つけて赤く小さく彩っていた。
真っ赤な双瞼が光りグレイは無表情な冷たい笑みを静かに浮かべる。
「ヴコ…」
“はい”
言葉にした主の声音を聞き付けて、ヴコは立っていた身体を数回に分けて大きく身震いさせた。
厳つい肩が曲がり、ヴコは地を這うように地面に倒れ込むと手をついて低い唸り声をあげる。
太い首から伸び始めた体毛は身体中を覆いつくし、尖った耳をヒクリとさせる。
「ヴコ…リドリーを探し出せ──…」
耳に鈍く響いたグレイの声に、ヴコは首だけをふって頷き返す。そして金色の光の如く姿を消した──
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