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姿見の前に立ち、ルナは夜会に出掛ける準備をしていた──
初めて行くまではあんなに楽しみにしていた夜の舞踏会。
綺麗なドレスで着飾りお洒落をする──
以前は華やかな場へ出掛ける住み込みで働いていた富豪邸宅のお嬢様を見かける度に、とても羨ましくてしょうがなかった……
だが、せっかく自分も憧れの世界に足を踏み入れることができるようになったのに、今はそれを嬉しいとは感じない。
ルナは背中の部分を前にしてビスチェの紐を一人で締めるとそれをくるりと後ろに回した。
若い躰は無理に補整下着で整えなくとも無駄な肉自体がないから意味はない。
無駄がない……
無さすぎる…
ルナはビスチェのプカプカと開く胸元の隙間を見つめ、少し哀しくなった。
「くっ…」
「──…っ!?…」
背後の笑い声に気付き、ガクリと項垂れた顔を上げると入り口に立つグレイが姿見にゆっくりと映し出された。
いつから見ていたのだろうか──
ほんとに油断も隙も有りはしない。
またドレスで胸元を隠そうとしたがもう今更だ。ルナはグレイを無視してドレスを着ようと手にとった。
「身なりを整えろ」
「……っ…」
グレイはルナからドレスを奪い、ベッドの上に放った。
「今から整えるんでしょっ!? 出てってよっ!」
グレイの放ったドレスを取りに行こうと背を向けたルナを、グレイは魔力を使って指先で手招く。
ルナの躰はズルズルと後ろに引き摺られ姿見の前に立つグレイの前でピタリと止まった。
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