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夜が深まる刻を差す──
薄い雲も見当たらぬ漆黒の夜空には無数の星が輝いていた。
グレイは車から降りたルナの前に立つと、上着のポケットからベルベット生地のリボンを取り出していた。
ワイン色のドレスにルナの白い肌が映えている。黒いリボンの真ん中には赤い石のブローチがぶら下がっていた。
その石の真ん中には猫の眼のように縦に楕円の細い筋が入っている。
グレイはそれをルナの首に飾りつけた。
「それだけ胸が膨らんでいれば宝石も飾られて本望だろう…」
「……っ…」
「絶対に外すな…外せばみすぼらしくなる。胸だけ膨らんでもお前にはまだ色気がないに等しい」
言った後に軽く口を歪めたグレイにルナはやっぱりむっとなった。
元のドレスの中身を知っているだけにグレイに何も言い返すことはできない。
今日は最初からなんだか意地悪だ──
「お手を…」
「結構よっ!」
紳士ぶって玄関前で手を差し出したグレイを振り切り、ルナはずんずんと会場入り口前の階段を一人でドレスの裾を抱えて登っていく。
グレイはその姿を見つめため息交じりに耳を掻く。
そして後から着いていった。
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