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ほうれん草とトマトを玉子に混ぜて焼いた美味しそうなキッシュを一口分、フォークで取ると少年は恥ずかしそうに俯くルナの口に寄せる。
「はい、夜は長いから今食べていたほうがいいよ」
「──…っ…」
ルナは言われて照れながらも口を開け、差し出されたキッシュを頬張っていた。
慣れない扱いに少し胸が踊る。そんなルナを気にしてか、時折遠くに居るグレイがちらちらとこちらを見る視線にルナは気付いた。
ふん、気にすればいいんだわっ…
「………」
ほんとに気にして居るのだろうか──
強きな表情をグレイに見せながらも不安が拭えない。
返ってルナのほうが余計にグレイの存在を意識してしまう。
ルナはまた運ばれるキッシュを口にしながらグレイの方をちらりと見た。
「──……」
目を見開いたルナは咄嗟にキッシュを喉に詰めて噎せ込む。
やっぱり向こうのほうが上手だ──
グレイは自分に目を向けたルナを見て口端に緩い笑みを浮かべると婦人の耳元に口を寄せ、妖しく何かを囁いていた──
顔を離してグレイを見上げる婦人の瞳がうっとりと濡れているようだ。頬を紅潮させるその表情、二人の間に何かしらの密約が交わされたに違いない。
噎せて苦しい胸を押さえながらもまた、目を向けてくるルナにグレイは不敵な笑みを返し見せ付けるように婦人の肩を抱いて、奥へと消えた……。
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