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夜の青山の歩道橋を渡って、ガードレールの途切れた所から覚えのあるナンバープレートの助手席に乗り込んだ。
「お疲れ様、予想通りの時間だな」
「うん」
ドアのロックを掛けて、背負っていたリュックを後部座席に置いた。その角度から首筋についと手を回されて、咄嗟に高之のシャツの胸を押しやる。
「ごめん拒否したんじゃなくて。唇、火傷したから」
「ああ……びっくりした……」
明らかに驚いた顔をされて朝陽は慌てて説明をした。
今週はCMの打ち合わせとスチール撮影の仕事が立て込んで、会えたのは一週間ぶりでアグレアーブルにも足を踏み入れていない。
明日、やっと休みが重なったのだ。
こんな状況は久しぶりだったので、スマホの文字ではなく実際に声を聞いて顔を見て、平常心でいたいのに心拍は無意識に上がってしまう。
「岡山さんにリップ塗ってもらったんだけど目立ってない?」
「その所為か。色っぽいなと」
意地悪く笑った高之に朝陽は顔をしかめた。しかし、飲食はしづらそうだとは思ったが、キスの事までは考えていなかった。
「食べられそうなのは何だろ? 寿司はどう」
「賛成、回ってないとこで」
やや贅沢な提案をした朝陽は機嫌を取り戻し無邪気に笑って、断るべくも無く高之はカーナビに寿司屋を入れた。
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