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スタッフ用の休憩室の重苦しい空気に耐えられなくなった怜太郎は、ありきたりな定型文を口にした。
「何かあったのかな? ……俺でよければ話聞こうか?」
もう少し若い頃は他人に干渉なんかしない、こんな場面で典型的な事を言う人間ではなかったのだが。
歳の所為か、はたまたこの狭い密室内で女子二人がただならぬ険悪なオーラを出しているから、だろうか。
「何でもないわよ、ねえ葛西さん」
「ええ、何でもないんですよ柏原さん。もっと地味で落ち着いた女子がバイトに来てくれたら良かったなんて、思ってないですから」
伏せもしない苛立ちを表に出して葛西は喧嘩を売りつけ、凪は鼻でフンと笑って「弱い犬ほどよく吠えるんだっけ」と言ってのけた。
──どうもこの二人は気が合わないらしい。
ガタリと大きく椅子を鳴らして立ち上がった葛西に、怜太郎はなるべく刺激しない様に声のトーンを意識して問いかける。
「どちらへ?」
「トイレ行って仕事戻るだけですけど!」
男は黙ってろと言わんばかりの睨みっぷりで休憩室を出て行った葛西を見て、凪は溜め息を吐いた。
「またやっちゃってるわ、あたし。女の敵を作りやすくて」
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