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「明日……?」
二階の事務所で店のホームページのレイアウトを変更していた高之は、ふとカレンダーを見て、過去に書き込んだスケジュールにしばらく釘付けになった。
「あれ? 俺、明日法事なんだってさ」
「……誰に言ってんの」
今知ったかのような口ぶりに、早く言えよと付け加えながら前方で経理の仕事をしていた朝陽は振り返る。
「危うく俺も急なスチール撮影受けちゃうとこだったじゃん」
先日のCM撮影を受けてから、まだ放映はされていないのだがモデル業界では話題になったようで、所属事務所の真島から連絡が多い。
「すっかり忘れてたな。じいちゃんの十三回忌だ。父さんらの代わりに凪と行く予定になってたよ」
夏のバタバタしていた頃に寺に予約していた。平日だし親族も呼ばずに凪と二人で良いかと決めていたのを思い出した。
「千葉の方だっけ。気を付けて」
「うん。悪いね」
頻繁にモデル事務所とやり取りしているのに気付いてから、何となく不安で仕方がない。そのうちもしも地方や海外での撮影などに連れ回されるような話になったら、と考える。
思い悩んでも仕方が無いので、朝陽がやりたいうちはと思うが、海外に行くとなればそこは全力で阻止したい。
「全力で」
気持ちが強すぎてうっかり口に出してしまった。
「法事を? そうなんだ……頑張ってね」
よく分からない意気込みに適当に返事をしつつ、朝陽は再びパソコン画面の給与明細の表に目を戻したが、階下で誰かが叫んでいる気がして耳をすませた。
気のせいではなく凪の声だ。
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