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「放っておいてください! 大丈夫だって言ってるでしょ!」
「無理することない。休憩室で横になればいいじゃないの! あんた何を強がってんの?!」
ディナー前の仕込みと準備中で客のいない時間帯のキッチンで、瞬発的に本気の怒り度合いで騒いだ女二人に周りが尻込みしている。
こんな時に限って昇は買い足しに行って不在だ。
「ちょっと二人とも何騒いでんの」
割り込んだ朝陽は、葛西の顔が青白い気がして小声で聞いた。
「座ろうか?」
朝陽にまで察されて極限になった恥ずかしさに、ポニーテールの頭を横に振る。
「平気です……」
「少しも平気じゃないわよ! 生理痛だって貧血だって何が恥ずかしいわけ?! もし倒れたら、」
「凪、抑えて」
男性スタッフの多い職場で平然と暴かれ、貧血も堪りかねて葛西は両手で顔を覆ってしゃがみ込んだ。
「……沙羅、休憩室に連れてってあげて」
「イエッサー」
唯一男性扱いしないで済む沙羅に肩を支えられた葛西は、血の気の引いた顔を歪めて凪を一瞥した。
「私やっぱり……あなたのこと嫌いです……」
小さな声だったがキッチンに響き、残された凪は悔しそうに下唇を噛み締めて呟く。
「だって……気付いちゃったら放っておけないじゃない……」
「わかってるよ」
朝陽は静かに、不器用な凪の背中を撫でた。
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