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寒くなってきたので、そろそろ時期かと思ってギャルソンエプロンのポケットに常備しておいた『貼るカイロ』をテーブルに置く。
「ははっ……やだサブマネージャーこんなの貼ってるんですか」
「だってもう結構寒いじゃん? 俺だって無理して仕事したくないもん。身体冷やさないように」
ついと指先で押し出されたカイロを受け取って、貧血で白くなった頬に血の気を戻して笑った。
「ありがとうございます」
笑顔だけ返し、朝陽は休憩室を出てドアを閉めて深呼吸をする。
大きな一仕事終えた気分だ。
「どうでした? あいつ」
同僚である葛西の様子を見に来たは良いが、掛ける言葉が見つからずに躊躇っていたところに来た朝陽に任せる事にした。
「イチでも心配するんだ。大丈夫そうだよ、普通に」
「はあ……そうですか」
正直、途中から心配になったのは朝陽の事だった。
あんなにショックを受けてへこんだ女の励まし方は、キスをしてやるくらいしか思い浮かばなかったからだ。
まかり間違っておかしなことになった場合に、マネージャーと痴話の諍いが起こるのは必至だと思って、の心配だ。
「余計でしたね、あんたに限って」
「……よくわかんないけど馬鹿にしたよな?!」
してないですよと笑うイチの背中を、朝陽は手の平で叩いた。
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