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法事は、悪天候の中行われた。
菊花を連れた三人で速やかに済んで、千葉県の道の駅に寄って買い物をし、高速道路に乗らずに帰ってもまだ夕方前だった。
「お兄、菊花連れて先に帰ってくれない? あたし夕方から三茶駅前のスーパーでレジの面接があるのよ」
「へえ? 辞めんのかよ、葛西と揉めたくらいで」
意外だった。
年がら年中勝手な振る舞いをして、誰に嫌われてもお構い無しだと思っていた妹は、珍しく口数が少ないと思ったら本当に落ち込んでいたのだ。
「だってあんな面と向かって嫌いって言われたの初めて……」
「お前って意識の半分くらい日本人じゃないもんな。初めて言われたって方が意外かも」
「お茶とかお華とか、習おうかなあ今から」
運転席から爆笑する高之を無視し、寝ているチャイルドシートの菊花を確認して凪は車を降りた。
雨はひとまず上がっていて、大きな水溜まりを跨いで横断歩道を渡る。
ショーウィンドウに映る黒いパンツスーツに黒いコートの自分は見慣れなくて落ち着かない。
面接の時間まで喫茶店で時間を潰そうと、良い店がないか見渡す。
歩道をオフホワイトのコートに淡い花柄のワンピースを着た女性とすれ違い、瞬きをしてから振り返った。
「葛西さんじゃない?」
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