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「……凪さんは美人だしスタイルもいいからそう言えるんです」
余裕のある意見に反論する。
こんなに羨ましい容姿があれば、自分だって自信がもてるはずだ。
「そんなこと……」
ふいに、向かいから対向車の大型トラックが路肩の溜まった水を跳ね上げて走ってくるのが見え、口頭で伝える時間もなく凪は葛西を歩道の内側へ押し退けた。
「あっ!」
一瞬の出来事だった。
路肩に大量に溜まった泥水は凪のコートを勢いよく濡らし、トラックは通り過ぎた。
「そうだと思った。もう何で減速しないかな、腹立つ!」
「ちょっ……何やってるんですか?! そんな高い服……」
こんな雨の日に白を選んだ自分が悪いのだ。わざわざ犠牲になる事はなかったのに。
まるで恩着せがましい行動に抗議をしようと口を開くより先に、凪が葛西のコートの内に着たワンピースを覗いた。
「あー良かった! 泥跳ねてないわね」
「そんなの……どうでも……!」
デザインと細かな縫製をまじまじと見て、ふ、と笑顔になる。
「だってこんな凝ってて素敵なのって一点ものでしょ。あたしのはいくらでも替えが効くもの。汚したくなかったのよ」
このワンピースは、手作りだ。
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