158人が本棚に入れています
本棚に追加
「こんなこと、云ったらまた、怒られちゃうかしらね」
早河先輩はちょっと、悪戯っぽく微笑む。
「い、いえ、そんなさっきは本当にすみませんでした」
「冗談よ。それにしても」
早河先輩は少し、考えるようなしぐさをしてから、云った。
「高杉くんにはっきり訊いたら、どう?」
「そんな、それが出来たら、こんなに悩まないですよ」
「そうね・・・・・でも」
早河先輩はわたしの顔を、まっすぐに見ながら云った。
「とにかく、高杉くんか、谷村さんに訊くことよ。それでもし、姫川さんの思ったとおりなら、その時は・・・・・」
「その時は?」
「奪っちゃいなさい!」
早河先輩は強く、それでいて優しく云った。
「?む、無理ですよ!そんなの・・・・・・・」
「どうして?好きなんでしょ、高杉くんのこと」
「だって・・・・・・柚季は友達だし・・・・それに、わたし柚季みたいに可愛くないし・・・・・」
「そんなことないわよ、姫川さんだって充分可愛いわよ。それにまだ、谷村さんと高杉くんが付き合うのかどうかもわからないんだから、まずはそれを確かめなきゃ、ね?」
「・・・・・はい」
でも、わたしに訊けるだろうか?
「ねえ、話は変わるけれど、姫川さん、いつ頃から高杉くんのこと、好きに、なったの?」
「いつからだったかな・・・」
「まあ、高杉くんとは幼馴染なんだから、自然とそうなったのかもね」
なんか、その時の記憶だけがスッポリ抜けてるような気が・・・。
7
部活が終わって、昇降口に行くと、下駄箱の前に、恵吾がいた。
「あれ、恵吾、どうしたの?」
「谷村さんから、お前の様子が変って聞いて・・さ」
「そ、そう、で、柚季は?」
「なんか、用事があるって、先、帰ったよ」
「あっそうなんだ・・・」
柚季、気を使ってくれたのかな。
「お前、なんかあったのか?」
わたしは黙ったまま、俯いた。
「まあ、云いたくないなら、いいけどさ。お前、大丈夫か?」
「う、うん、もう平気。ゴメンね、心配かけて」
「気にすんな。じゃあ、帰ろうぜ」
「うん」
恵吾と並んで、昇降口を出て校門まで歩いていく。もう、空が夕焼けで赤くなっている。玉藻市は夏でもなぜか、日暮れが早い。田舎だからかな。
「帰りにドーナツでも食って帰るか?おごってやるからさ」
「食べたいけど・・いいや。太っちゃうから」
最初のコメントを投稿しよう!