第1章

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「こんなこと、云ったらまた、怒られちゃうかしらね」 早河先輩はちょっと、悪戯っぽく微笑む。 「い、いえ、そんなさっきは本当にすみませんでした」 「冗談よ。それにしても」 早河先輩は少し、考えるようなしぐさをしてから、云った。 「高杉くんにはっきり訊いたら、どう?」 「そんな、それが出来たら、こんなに悩まないですよ」 「そうね・・・・・でも」 早河先輩はわたしの顔を、まっすぐに見ながら云った。 「とにかく、高杉くんか、谷村さんに訊くことよ。それでもし、姫川さんの思ったとおりなら、その時は・・・・・」 「その時は?」 「奪っちゃいなさい!」 早河先輩は強く、それでいて優しく云った。 「?む、無理ですよ!そんなの・・・・・・・」 「どうして?好きなんでしょ、高杉くんのこと」 「だって・・・・・・柚季は友達だし・・・・それに、わたし柚季みたいに可愛くないし・・・・・」 「そんなことないわよ、姫川さんだって充分可愛いわよ。それにまだ、谷村さんと高杉くんが付き合うのかどうかもわからないんだから、まずはそれを確かめなきゃ、ね?」 「・・・・・はい」 でも、わたしに訊けるだろうか? 「ねえ、話は変わるけれど、姫川さん、いつ頃から高杉くんのこと、好きに、なったの?」 「いつからだったかな・・・」 「まあ、高杉くんとは幼馴染なんだから、自然とそうなったのかもね」 なんか、その時の記憶だけがスッポリ抜けてるような気が・・・。              7 部活が終わって、昇降口に行くと、下駄箱の前に、恵吾がいた。 「あれ、恵吾、どうしたの?」                     「谷村さんから、お前の様子が変って聞いて・・さ」 「そ、そう、で、柚季は?」 「なんか、用事があるって、先、帰ったよ」 「あっそうなんだ・・・」 柚季、気を使ってくれたのかな。 「お前、なんかあったのか?」 わたしは黙ったまま、俯いた。 「まあ、云いたくないなら、いいけどさ。お前、大丈夫か?」 「う、うん、もう平気。ゴメンね、心配かけて」 「気にすんな。じゃあ、帰ろうぜ」 「うん」 恵吾と並んで、昇降口を出て校門まで歩いていく。もう、空が夕焼けで赤くなっている。玉藻市は夏でもなぜか、日暮れが早い。田舎だからかな。 「帰りにドーナツでも食って帰るか?おごってやるからさ」 「食べたいけど・・いいや。太っちゃうから」        
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