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だが、悠平は納得しなかった。
呆然とするちひろの腕を引き、バスの中へ乗り込もうとする瑞樹を慌ててひき止める。
「待って、ちひろちゃんは俺が……」
瑞樹はバスの中へちひろを押し込むと、扉を塞ぐように立って悠平に言った。
「この人と近所だから、心配しないで俺に任せて。ついでで悪いんだけど、守口さんを送ってあげてくれるかな」
瑞樹がニッコリと微笑む。
悠平が呆気にとられる中、バスの扉が音を立てながら閉まった。
「こ、こここここれは一体どういう……?」
瑞稀に強引に手を引かれ、ちひろはバスの座席に押し込められた。
隣に座った瑞樹を困惑しながら見ると、先程の王子様な笑顔は消え、いつもの不機嫌な顔がそこにはあった。
「お前さ、あの男何なんだよ。まさか彼氏とかじゃないだろうな」
「ち、ちちちちちちがうよ!そんなんじゃないよ!」
「じゃあなんだよ。好きな男か?」
「ち、…………わ、わからないけど、どうして、そんな事聞くの?」
瑞樹は当然、とでも言うように、キッパリと言った。
「好きになるのは勝手だけど、彼氏を作るのは別だ」
「………へ?」
「昨日、お前だって言ってただろ。彼氏が出来たら秘密がバレるかもしれないし、都合が悪くないかって」
「……ハッ!」
ちひろは絶望する。
「今までお前に男っ気なかったから考えなかったんだけど、それ聞いて俺もよく考えたんだよ。ちひろに彼氏が出来たら、睡眠障害でお前に世話させるのもそいつに気が引けるし、理解してもらうのも難しいだろうなって。なにより、お前が彼氏に隠し通せるとは思えない。色々つめが甘いからな」
「………えーっと…?」
「俺だって、守口がもしお前と同じ立場にいたら、全力でその男を殴り飛ばして世話させないように監視する。一応俺も人の子だ、お前の彼氏に罪悪感くらい持つ」
「………つまり、私に彼氏が出来るのはダメってこと……?」
恐る恐る聞くと、瑞樹は実に清々しく頷いた。
「あぁ、彼氏はだめだ」
(こ、この人、私と櫻君の仲を妨害する為にこんな行動に出たんだ……!)
頭が痛くなり、ちひろは「うぅ……」と頭を抱えた。
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