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「何も一生とは言ってないからな。高校卒業したらお前の役目も終わるし、好きなだけ男を作ればいいよ」
「か、勝手な事言ってくれるね。なんで、そんな事まで言うこと聞かないといけないの?」
「なんだよ。今まで男に興味なかったのに、急に彼氏が欲しくなったのか?」
人懐っこく笑う悠平の顔が頭に浮かび、また赤面してしまう。
「ち、違うけど、そりゃ、その、好意を持ってくれる人が現れたら、悪い気はしないし、それに、いい人なら、ま、前向きに考えてもいいかなって、思うでしょ……?」
「ふーん」と瑞樹は目を細める。
「つまりあれだ、お前はまだ好きかわからないけど、あの悠平って男に好かれてる訳だ」
ちひろはまた絶望する。
「そ、そこまで言ってないよ!」
「言わなくてもお前は全部バレバレなんだよ」
ちひろはわなわなとしながら言った。
「み、みみみ瑞樹君、頼むから余計な真似はしないで……」
「さぁーね。………悠平君か、覚えとくよ」
不適に笑う瑞樹に、ちひろはゾッと背筋を凍らせたのだった。
◇ ◇ ◇
「おかあさーん。絆創膏って、どこにあったっけ?」
お風呂上がり、ヒリヒリと痛む膝を忌々しく思いながら、ちひろはリビングの戸棚をガサガサと漁っていた。
キッチンから、母の葉子が顔を出す。
「そこにあると思うんだけど。なかった?」
「うーん、ないなぁ」
「なかったら、明日買っとくから」
「えー、明日ぁ?」
「1日くらい大丈夫だって。なんなら、瑞樹君に貰いなさいよ。どうせ夜行くんだし」
「もー……あの人に借りは作りたくないんだよ…」
「なにか言ったぁ?」
「なにもー」
ちひろはむくれたまま階段を上ると、部屋の中へ入って机に向かった。
膝を曲げた際、またピリリッと痛みが走る。
「うー……痛い。あの人のせいで、いっつも嫌な目にあってる気がするよ……」
打ち身のあった二の腕を見て、ふぅとため息を吐く。
バスの中で勝手気ままな事を言っていた瑞樹を思い出して、また、重いため息を吐いた。
「なんであの人と幼馴染みやってるんだろう。あんな勝手な人、見捨ててもバチはあたらないんじゃないかな……」
長い付き合いからの情なのか、それともすりこみか。
ちひろはいつまでたっても瑞樹の言いなりだ。
どうしても、そこから抜け出せない。
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