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この2階の教室の窓からは、広々とした中庭が見渡せる。
数本植えられた銀杏の木の下にはベンチが設けられ、そこで他クラスの男子生徒がたむろしていた。
その中に、一際人目を引く少年がいた。
さらりとした漆黒の髪に、鋭ささえ感じる程の綺麗な瞳。
絹のように滑らかな美しい肌の上には、高く通った鼻筋と、桜色の唇が品よく弧を描いていた。
その美しさは顔だけではない。
すらりと伸びた手足に、スポーツマンを彷彿とさせる均等のとれた肉付きと骨格。
どこか洗練された立ち姿。
誰もが彼を一目見るだけで強烈な印象を与えられる。
校内でも知らない人はいない、そんな彼の名前は、月城瑞樹。
「完璧だわ……月城君……」
感嘆の息を漏らしながら言った加菜恵の言葉に、ちひろは小さく苦笑した。
認めたくないが、そう、月城 瑞稀の容姿は完璧なのだ。
どんな容姿がタイプだうんぬんと語るのが、彼の前では馬鹿馬鹿しくなるほど、女の子の理想を詰め込んで具現化したような容姿だった。
「そんなに完璧かな?」
ちひろはつまらなそうに加菜恵に訪ねた。
彼に騒ぎ立てる事が、本当につまらないと感じた。
加菜恵は信じられないといった様子で言った。
「ちひろ、あんたどこに目ついてんの」
加菜恵のつり上がった目にビクッとなる。
「いやぁ……えっと……」
「彼が完璧じゃなかったら誰が完璧だっていうの?この教室の男共と彼を見比べてみてよ!いかに彼が特別な存在なのかよくわかるわ!」
「ちょっ、かなえちゃん……」
周りの男子に気遣うちひろを無視し、加菜恵はまた外に目を向けてうっとりとした。
「顔だけじゃない、成績もずっと学年1位だし、運動神経だって抜群なんだよ。性格もいいみたいだし、本当に非の打ち所がないよね。あぁ、同じ空気吸えてるだけで本当に幸せ……」
加菜恵の態度にちひろは嘆息した。
彼の前では皆、どこかおかしくなる。
何か妙なフェロモンでも発しているのかと思うくらいだ。
「完璧な人って、そんなに魅力的なのかな……」
そう呟くと、加菜恵はとろけそうな顔をしたまま言った。
「欠点だらけよりいいに決まってるじゃん」
「そうかなぁ………」
「ちひろはまだ恋したことないからわかんないんだよ。本ばっかり読んでないでさ、ちょっとは異性に感心持てばいいのに」
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