第1話

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この2階の教室の窓からは、広々とした中庭が見渡せる。 数本植えられた銀杏の木の下にはベンチが設けられ、そこで他クラスの男子生徒がたむろしていた。 その中に、一際人目を引く少年がいた。 さらりとした漆黒の髪に、鋭ささえ感じる程の綺麗な瞳。 絹のように滑らかな美しい肌の上には、高く通った鼻筋と、桜色の唇が品よく弧を描いていた。 その美しさは顔だけではない。 すらりと伸びた手足に、スポーツマンを彷彿とさせる均等のとれた肉付きと骨格。 どこか洗練された立ち姿。 誰もが彼を一目見るだけで強烈な印象を与えられる。 校内でも知らない人はいない、そんな彼の名前は、月城瑞樹(つきしろみずき)。 「完璧だわ……月城君……」 感嘆の息を漏らしながら言った加菜恵の言葉に、ちひろは小さく苦笑した。 認めたくないが、そう、月城 瑞稀の容姿は完璧なのだ。 どんな容姿がタイプだうんぬんと語るのが、彼の前では馬鹿馬鹿しくなるほど、女の子の理想を詰め込んで具現化したような容姿だった。 「そんなに完璧かな?」 ちひろはつまらなそうに加菜恵に訪ねた。 彼に騒ぎ立てる事が、本当につまらないと感じた。 加菜恵は信じられないといった様子で言った。 「ちひろ、あんたどこに目ついてんの」 加菜恵のつり上がった目にビクッとなる。 「いやぁ……えっと……」 「彼が完璧じゃなかったら誰が完璧だっていうの?この教室の男共と彼を見比べてみてよ!いかに彼が特別な存在なのかよくわかるわ!」 「ちょっ、かなえちゃん……」 周りの男子に気遣うちひろを無視し、加菜恵はまた外に目を向けてうっとりとした。 「顔だけじゃない、成績もずっと学年1位だし、運動神経だって抜群なんだよ。性格もいいみたいだし、本当に非の打ち所がないよね。あぁ、同じ空気吸えてるだけで本当に幸せ……」 加菜恵の態度にちひろは嘆息した。 彼の前では皆、どこかおかしくなる。 何か妙なフェロモンでも発しているのかと思うくらいだ。 「完璧な人って、そんなに魅力的なのかな……」 そう呟くと、加菜恵はとろけそうな顔をしたまま言った。 「欠点だらけよりいいに決まってるじゃん」 「そうかなぁ………」 「ちひろはまだ恋したことないからわかんないんだよ。本ばっかり読んでないでさ、ちょっとは異性に感心持てばいいのに」
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