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「とりあえず、俺は守口の見た目と中身と何でも完璧にこなせる所に惹かれたんだよ」
「なるほど……」
「自分の中で決めた条件ってのは大事だ。こんなはずじゃなかったって、相手に失望しなくていいからな。だから、俺はお前みたいな平々凡々の女には元より興味ないし恋に落ちることもない」
「お、おぉ……、ここまでくると、いっそ清々しいね」
「とりあえず、難しいこと考えるのはやめろ。お前の条件ってやつを見つければいいんじゃないか?」
「そんなものなのかなぁ。それはそれで、ちょっと違う気がするよ」
「なら俺に恋愛相談なんかするな。というか、彼氏作るのは卒業してからにしろよ」
「言わなくても出来ないよ……」
「だろーな」
瑞樹は疲れたように深く息をつく。
そしてちひろの髪に手を伸ばすと、いつものように寝る準備を始めた。
(うぅーん、相談?する相手を間違えた気がする……)
髪をとかされながら、ボーッと宙を仰ぐ。
考える事が、もう面倒臭くなった。
「ほら、行くぞ」
「え?」
呆けていると、不意にボーッとした瑞樹が立ち上がった。
今にも寝てしまいそうなのに、彼は一体どこへ行こうと言うのか、ちひろは一瞬訳がわからなくなった。
「部屋戻らないといけないだろ。お前送ったらこのまますぐ眠れるから」
ようやく瑞樹の意図を理解して、ちひろは少々面食らった。
「いいよ、大丈夫だって。一人で帰れるから」
「つべこべ言わずに早くしろ。眠気の効果が切れる」
半ギレで言われ、ちひろは「はい……」と従うしかなかった。
ベランダに出て、柵に足をかけてよじ登る。
登った所で、後ろで待機していた瑞樹の手がこちらに伸びてきた。
その手を掴もうとしたが、ちひろは思わず手を止めた。
大きく包み込むような手を思い出して、急に恥ずかしくなったのだ。
「え、えーっと、やっぱり大丈夫だから。一人でいけるよ」
「いいから手を持てって」
「あはは、だから大丈夫だって」
「早くしろっつってんだよ」
「いいってば」
「早くしろって!」
「いいっていいって!早くベッドに戻ってください!」
「早く戻りたいから手を掴めっつってんだよ!」
ぐっと伸びてきた瑞樹の手を、ちひろが慌てて振り払った時だった。
その反動で、ちひろの体のバランスがぐらりと傾いた。
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