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◇ ◇ ◇
加菜恵はお弁当のウインナーを頬張りながら、まったりとした顔で、さらに頬を赤くさせて言った。
「あー、あの店のパンケーキ美味しかったねぇ」
感嘆の息をもらしながらのそれに、ちひろは「ほんとだね」と相槌を打ちながらも、加菜恵のこの大袈裟な様子に違和感を覚えていた。
確かに先日のパンケーキデートは美味しくて楽しかった。
だが、この様子では、きっとそれだけではないはずだ。
ちひろは探偵になったつもりで加菜恵に聞いた。
「時に加菜恵ちゃん。他に素敵な、とても良いことがあったんではないの?」
目を細めてじっとりと加菜恵を見ると、抑えきれない笑みを懸命に堪えながら、加菜恵はひっそりと耳打ちするように言った。
「実はね……」
「ふむ」
「彼氏が出来ちゃったの!」
「!?」
流石のちひろも、予想外の答えに衝撃を受ける。
口に詰め込んでいた米粒が勢いよく飛散した。
「ゲホッ、ゴホッ、ほ、ほんとに!?」
ここが屋上で良かったと心底ホッとしながら、ちひろは慌てて地面に張り付いた米粒をせっせと拾う。
そんなちひろをよそに、嬉々として加菜恵は語り始めた。
「実はね、前から連絡とってる人がいたんだけど、ほら、私ってば月城君一筋だったじゃない?だから今まで眼中になかったんだけどさ、何だか慰められてる内にこの人もいいなぁって」
ちひろは愕然とした。
「そ、そんな、加菜恵ちゃん!レストランのメニュー選ぶんじゃないんだからさ、そんなあっさり決めちゃってもいいの!?そんな、ふわっとした感じでいいの……!?」
「やだな、これだからちひろは恋愛出来ないのよ。恋はね、タイミングが重要なの。今だ!って言う直感を逃したらいつまでたっても愛なんて手に入らない」
「そ、そうなの?」
「そうなの」
「でもさ、でもさ、月城君のこと、あれだけ好きだって言ってたのに、もう次に人を好きになれるものなの?」
「んー、まだめちゃくちゃ好きって訳でもないけど、嫌いでもないしね。でも、たぶんもっと好きになる。それがわかるの。それに、月城君はアイドルを追っかけるのに近かったしね。現実味があるのは今の彼だよ」
「加菜恵ちゃん、逞しいね」
「でしょ?」
ちひろは可笑しくなってふふっと笑った。
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