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「見て見て、瑞樹くん!雪だるま!できた!」
白い息を吐き、鼻を真っ赤にさせて、彼女が心底楽しそうに言った。
昨日、この土地に珍しく降った雪は、下校時間になっても公園の隅に鎮座したままだった。
その雪で遊ぶ彼女は、まるで小学生の女の子だ。
いや、仲が良かった頃の無邪気な彼女が目の前にいる。
だから、余計にそう思うのかもしれない。
「なんか、ブサイクじゃない?」
公園の花壇の隅に作られた雪だるまは、お世辞にも可愛い仕上がりではなかった。
顔を無骨な石で作っているのだから、当然と言えば当然だった。
マフラーの下で「わはは」と無邪気に笑う彼女に、何がそんなに嬉しいんだ、と内心思いながらも、そんな所が可愛く見えたりするのだから、自分の頭は結構重症だ。
「ナンテンの実とか使えばいいだろ」
「あ、そっか、探してくる!」
そう言って、彼女はどこかへ走って行った。
その動きの速さも、てんで幼い少女だ。
(別にいいんだけど、なんだかなぁ…)
遠のいて行く背中を見ながら、少しだけため息を吐く。
幼い少女のような純真さや無邪気さは、彼女の美点であるとわかっている。
だが、不満がないと言ったら嘘になる。
(付き合い初めの頃は、よそよそしかったから気付かなかったけど、向こうが慣れてきたからわかる事がある)
それは、彼女、ちひろが、自分を異性の彼氏としてちゃんと意識しているかどうか、だ。
初めこそ、よそよそしさも相まって、付き合いたての恋人のように初々しいものがあった。
だが、どうにもここ最近、自分の側にいる事に慣れた彼女は、昔の頃のような関係に戻ったことを喜んでいる節がある。
以前の仲良が良かった頃に戻れたと喜んでいるのは別にいいのだが、自分は彼女にとって幼い友人ではなく、あくまで恋人なのだ。
女々しいかもしれないが、彼氏として意識して欲しいと思わずにはいられない。
(ちゃんとわかってんのかな)
ナンテンの木を見つけてブチブチと実をちぎっている彼女の背中に近付く。
ひょいっと顔を覗き込むと、あどけない笑顔で向かえられた。
「へへ、ナンテンの実って、たくさん欲しくなるんだ」
「そんなに取ってどうすんだよ」
「器に水を張って浮かべようかな。小さい時は、おままごとに使ったよ」
「この歳でままごとするとか言うなよ」
「わはは、楽しいかもしれない。瑞樹くんはおままごと嫌いだったね」
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