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「でも良かったね、おめでとう」
「ありがとう」
加菜恵が心底嬉しそうに微笑む。
展開の早さにやや気後れしたが、彼女が笑顔ならそれでいいとちひろは思った。
加菜恵が笑顔でいられるならそれが一番なのだ。
「それよりさ、ちひろはどうなのよ」
「え?」
「櫻悠平。返事したの?」
ちひろは「うん」とやや気落ちしながら頷いた。
「電話でね、気持ちがわからないからごめんなさいって言ったの。凄く申し訳なかったな……こんな私を好きだって言ってくれたのに、凄く親切にしてくれたのに……」
ちひろは肩で息をつくと、プチトマトを指でつついた。
「私が加菜恵ちゃんみたいに難しく考えなかったら、櫻君を受け入れてたのかな。そしたら、恋愛に前向きになれてたのかな?……ある人にね、聞いてみたんだ。そしたらね、条件も大切だって言うの。余計に訳がわからなくなったよ」
すると、加菜恵は実に彼女らしい言葉を言ってのけた。
「あんたさ、そんなに考えすぎて頭疲れない?」
「……え?」
「恋ってさ、ストンって降りて来る時もあるし、すっごく時間かけなきゃ育たない時だってあるんだよね。でもさ、そのどちらにも共通するのが、やっぱり「好きだなぁ」って心底思える気持ちだよ」
「好きだなぁ……?」
「そう。私もね、確かに弱ってるからかもしれないけど、でも、今の彼ならすっごく好きになれるだろうなぁって思ってる。もしかしたら違うかもしれないけど、今はそう信じてる。わかるよね?」
ちひろは、加菜恵が言わんとすることが何となくわかる気がして、こくりと頷いた。
「自分の気持ちに自信がないなら、ちひろの出した答えは間違いじゃないよ。うじうじ考えちゃだめ!きっと、これが恋なのか!ってわかる時が来るから」
加菜恵の言葉に、もやもやした気持ちが晴れていくのがわかった。
「そうだね、きっとわかる時がくるよね」
「当たり前でしょ。あんたは考えすぎなの」
加菜恵のさっぱりとした答えが、この時ばかりはありがたかった。
ようやくご飯が美味しく喉を通った時、不意にちひろはハッとなった。
「あっ、そうだ。今日は本の返却予定日だったよ!ちょっと行ってくるね!」
「はーい。私もここでのんびりしとくよ」
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