第3話

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「でも良かったね、おめでとう」 「ありがとう」 加菜恵が心底嬉しそうに微笑む。 展開の早さにやや気後れしたが、彼女が笑顔ならそれでいいとちひろは思った。 加菜恵が笑顔でいられるならそれが一番なのだ。 「それよりさ、ちひろはどうなのよ」 「え?」 「櫻悠平。返事したの?」 ちひろは「うん」とやや気落ちしながら頷いた。 「電話でね、気持ちがわからないからごめんなさいって言ったの。凄く申し訳なかったな……こんな私を好きだって言ってくれたのに、凄く親切にしてくれたのに……」 ちひろは肩で息をつくと、プチトマトを指でつついた。 「私が加菜恵ちゃんみたいに難しく考えなかったら、櫻君を受け入れてたのかな。そしたら、恋愛に前向きになれてたのかな?……ある人にね、聞いてみたんだ。そしたらね、条件も大切だって言うの。余計に訳がわからなくなったよ」 すると、加菜恵は実に彼女らしい言葉を言ってのけた。 「あんたさ、そんなに考えすぎて頭疲れない?」 「……え?」 「恋ってさ、ストンって降りて来る時もあるし、すっごく時間かけなきゃ育たない時だってあるんだよね。でもさ、そのどちらにも共通するのが、やっぱり「好きだなぁ」って心底思える気持ちだよ」 「好きだなぁ……?」 「そう。私もね、確かに弱ってるからかもしれないけど、でも、今の彼ならすっごく好きになれるだろうなぁって思ってる。もしかしたら違うかもしれないけど、今はそう信じてる。わかるよね?」 ちひろは、加菜恵が言わんとすることが何となくわかる気がして、こくりと頷いた。 「自分の気持ちに自信がないなら、ちひろの出した答えは間違いじゃないよ。うじうじ考えちゃだめ!きっと、これが恋なのか!ってわかる時が来るから」 加菜恵の言葉に、もやもやした気持ちが晴れていくのがわかった。 「そうだね、きっとわかる時がくるよね」 「当たり前でしょ。あんたは考えすぎなの」 加菜恵のさっぱりとした答えが、この時ばかりはありがたかった。 ようやくご飯が美味しく喉を通った時、不意にちひろはハッとなった。 「あっ、そうだ。今日は本の返却予定日だったよ!ちょっと行ってくるね!」 「はーい。私もここでのんびりしとくよ」
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