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加菜恵が彼氏とのメッセージのやり取りを始めたのを見て、ちひろは微笑ましく思いながら本を抱えて屋上を後にした。
階段を駆け降り、図書室までの長い廊下を足早に通り過ぎる。
ちひろの学校は、本館二棟と別館の3つで成り立っていて、図書室は別館の方にある。
別館は職員室と事務所、そして特別教室などが入っており、教室などがある本館よりいつもひっそりと静まり返っていた。
そして、本館から別館へと続く、裏手の渡り廊下を歩いている時だった。
(ん?なんだろう……)
ふと、女子の声が聞こえて来て、ちひろは「?」と何の気なしにそちらに目を向けた。
ちひろはよくこの廊下を通るのだが、生徒をみかける事は少ない。
廊下から見える外の角に、数人の女子が集まっているのが目えて、珍しいなとちひろは首を傾げた。
それも、特別進学クラスのA組の女子だった。
それでも、ただの穏やかな談笑風景なら、ちひろはそのまま通り過ぎただろう。
少なくとも、喧嘩や内輪揉めであってもすごすごと通り過ぎた。
だが、その女子の集団の中に守口紗也を見付けてしまったものだから、ちひろは立ち止まらずにはいられなくなった。
守口紗也を取り巻いた女子達が、鋭い声を浴びせている。
「あなた、どういうつもり?抜け駆けとか許されないんだけど」
リーダー格の女子が、守口紗也に詰め寄った。
守口紗也は、その愛らしい顔をただうつ向かせていた。
(ど、どうしよう……瑞樹君の恋人が……!)
あわわわわと、他人事ではなくなってちひろは慌てた。
女子達は、小さくなる守口紗也に容赦なく言った。
「月城君は、誰のものにもしないっていう皆の約束だったの。それを裏切るなんて、あなた本当に最低の人間だったのね」
「……………」
「どんな色目使ったの?あなたそれしか魅力ないもんね」
「……………」
「黙ってないで何とか言ったら?私達を出し抜いて気持ち良かったんでしょ?」
「……………」
「なんとか言ったらどうなの」
「……いたっ……!」
リーダー格の女子が、守口紗也の髪を無遠慮に掴む。
いよいよ黙って見ていられなくなり、ちひろは勇気を振り絞って叫んだ。
「も、ももも守口さーん!先生が呼んでるよー!」
ちひろの大声に、女子達がびっくりして一斉にちひろを見る。
ヒィッと思わず後ずさったが、意外にもその嘘を信じた彼女達は、バツが悪そうに守口紗也の元から離れて行った。
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