第3話

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(よ、良かった……) ちひろは大きく胸を撫で下ろした。 (私も早く立ち去ろう。守口さんも、気まずいだろうし) 直ぐ様姿を隠そうと、ちひろが歩き出した時だった。 「あ、あの……!」 か細い、可愛らしい声に、ちひろは思わず足を止めた。 恐る恐る彼女を見ると、儚げで色白な顔が、真っ直ぐとこちらを見ていた。 「吉村さん、だよね?月城君の、ご近所さんの」 そう言われてしまってはもう、知らぬふりは出来ないのだった。 「誰かに追われているの?」 先程から、人目を気にしてこそこそと歩くちひろに、さすがの紗也も怪訝に思ったらしい。 ちひろは「へ、へへ……」と愛想笑いで誤魔化すと、悟られないようにため息をついた。 (こ、こんな所をあの人に見られたらタダじゃすまされないよ。締め上げられる……) 身の危険を感じてブルッと震え上がる。 そんなちひろの悩みなど露知らず、紗也は嬉しそうに隣を歩いていた。 二人は、中庭のベンチを目指していた。 紗也が、何故だかちひろと話をしたいと言ってきたのだ。 ちひろは図書室に用事があるからと断りを入れたのだが、その後にでも話せないかと彼女は食い下がってきた。 話をしたいと言う彼女の熱意に断りきれず、ちひろは渋々了承したのだった。 「さっきは助けてくれてありがとう。びっくりしたよ」 「う、ううん、そんな……」 ベンチに腰かけると、さっそく紗也がお礼を言った。 「覚悟はしてたんだけど、まさかあんな風になるとは思ってなくて。すごく怖かったよ。吉村さんは、どうして助けてくれたの?」 気が気ではないちひろは、そわそわと辺りを伺いながら彼女の話に耳を傾けていたので、質問されている事に一瞬気が付かなかった。 「あっ、え!?あ、それは、ほら、あの、困っているように見えたから……」 「そうなんだ、ありがとう。そう言えば、月城君とご近所さんってことは、小学校とか中学校は同じだったの?」 「あ、えーっと、それは………うん、そうだった気がするよ……!」 「気がする?」 愛らしい瞳を丸くする紗也に、ちひろは見とれそうになりながら言い繕った。 「ほら、月城君は、私とは住む世界が違って、関わることもなかったから……あんまり、ピンとこなくて」 「あ、そっか。月城君って、今も昔も目立ってたんだね」
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