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「うん。私にとっては異世界の住人だったよ」
アハハ、と苦笑すると、紗也は「ふーん」と頷いた。
「でも、あの時の二人の様子、顔見知り程度には見えなかったけど……」
ちひろの背筋が凍る。
「………え?」
「怪我してるから送っていくなんて、ある程度仲良くなかったら出来ないじゃない?もしかして、本当は吉村さん、月城君と仲良いんじゃない?」
ちひろの頭の中が真っ白になる。
ただ、「そんなまさか…」と力なく呟くしかなかった。
紗也は続けて言った。
「月城君って、滅多なことで女の子一人を特別扱いしないの。だから吉村さんが私に遠慮して誤魔化してるなら、その心配はしなくていいからね」
にっこりと紗也が微笑む。
ちひろは何故か頭の中で警報が鳴っている気がした。
危険だ、危険だ、と。
彼女は何かに勘づき、探りを入れて来ているのだ、と。
「わ、私……は、本当に月城君とは仲良くないよ。それに、わ、私なんかに特別扱いする訳がないよ。ただ、守口さんに良いところを見せようとしたんじゃないかな」
「そっかなぁ」
「そ、そうだよ」
額から冷や汗が流れる。
今すぐこのベンチから立ち上がりたかったが、紗也がそうさせなかった。
「ね、櫻悠平君って、もしかして吉村さんの彼氏?」
「え!?」
「この前ね、帰りに送って貰ったんだけど、彼、吉村さんの事好きみたいだね」
言葉にならずに驚いていると、紗也は無邪気に続けた。
「吉村さんの事、照れながら話しててね、すっごく可愛いかった。それでね、お友達になったんだ」
ちひろは頭の中がグルグルとして、彼女の話が上手く頭に入ってこなかった。
「ね、私良いこと考えたんだけど、四人で一緒にお昼食べない?私、悠平君と吉村さんと、仲良くなりたいの」
曇りのない清々しくキラキラした目でそう言われ、ちひろはうんともすんとも言えなくなってしまった。
彼女はポジティブな人なのだろう、否定されない事を答えと受け取って、一方的に約束を取り付けた。
「じゃあ、私、二人に声をかけておくね。さっそく明日にでもお昼食べよ?ね?」
そこでようやくハッとなる。
「まっ、まままま待って守口さん!私は……!」
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